2008年7月20日日曜日

現代小説『菖蒲の花束』

 世間一般はGWである。
 だが、俺は相変わらずこいつと顔を付き合わせていた。もっとも、俺たちの仕事にGWなんて関係ないようなものではある。
「で? 今回の仕事の内容は?」
 どうせ仕事の話だろう。こいつと、うだうだ話をしても仕方がない。
 俺は目の前に座るや否や、開口一番、話を切り出した。
「いきなりだな。だが、今日は仕事の話じゃない」
「……? お前が、仕事以外で呼ぶなんて珍しいな」
 じゃあ、何の話なんだ?
 聞き返そうとすると、こいつは急に花束を差し出してきた。
 花束は俺から見えない位置に置いてあったらしい。
「何だ、これは!?」
「何って、花だが?」
 俺が聞きたいのは、そういうことじゃない。問題は、なぜここで花束が出るのかということだ。
 って、何だか前にもこういうやり取りをしたことがある気がするな……。
「菖蒲の花だ。お前のために用意した」
 アヤメかよ。花束にしたのを初めて見たよ。花言葉は『憤慨』だっけ? どこかでそう聞いた気がするんだが……。
 まさか、前回に対する当て付けか?
「何を言っている。俺がわざわざそんなことをすると思うか?」
 確かに、お前はそういうヤツじゃないな。
「で、こいつを俺に渡してどうする気だ? 前にも言ったように、こんなのを貰っても嬉しくないぞ」
 俺もお前も男だからな。たとえ、俺が特殊だとしても。
 それと、そういう顔と態度は、世の女にくれてやれ。付いてくるヤツがダース単位でいるぞ。
「それは残念だ。ところでお前は子供は好きか?」
 相変わらず話の切り替わりが唐突だな、おい。
 だが、まぁ子供は嫌いじゃない。近所の子供の面倒を見たこともあるしな。
 もっとも、俺が親になったら、子供に甘くなりそうだはと思う。
「そうか。いずれは子供も欲しいものだな」
 そうだな。だが俺は、お前からそういう話題が出ること自体が驚きだ。
 などと、今日は取り留めのない話に終始したのだった。
 しかし、GWにこんな話をするなんて、五月病になったわけでもあるまいに、どうしたのだろうか?

 ところで、貰ったアヤメの花言葉が一般に『恋のメッセージ』『愛』などだ、という事実はあとで知った。
 が、知らなかったことにしよう。そう、俺は何も知らないからな。

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