あたしは体が弱い。
ううん。弱いなんてものじゃない。もうあまり生きられないと思う。まわりは隠しているけど、なんとなく分かる。
だからなんだろうな。あたしのいうことは、みんな何でも聞いてくれた。でも、それが悲しかった。
自分の望みが何でも通る。そういうと、ものすごくいいことのように思えるよね。
あたしが悪いことをしても、誰も怒らない。わがままをいっても、聞いてくれる。
でもね、違うんだ。そんなのあたしを一人の人間として扱っていない証拠なんだ。
そのことに気が付いたのは、コーイチと会ってからだった。それまで分からなかったけど、あたしは怒られたかった。きちんと人間として扱われたかったんだ。
コーイチの第一印象は最悪だった。小さい頃だったけど、それは覚えてる。
コーイチは、あたしがお世話になっているお医者さんの家の子供。あたしが初めてこの病院に来たときに出会った。
この先生は少し変わっていた。いくら医者の息子だからといって、2つ上なだけのコーイチにあたしの世話をさせるんだから。
そのときのコーイチの第一声が「なんで僕がそんなことをしなきゃいけないんだよ」だった。
それまであたしは、そんなことを言われたことがなかったからショックだった。みんな聞いてくれるのが、当たり前だった。
それがコーイチは違った。あたしのわがままに対してはっきりとイヤと言うし、コーイチの都合でやってくれないことも多かった。
でもこれで、あたしはみんなにも都合というものがあるんだと知った。何でもあたしを優先してくれるというのが、普通じゃないって知ったんだ。
あたしはそれに気付いてから、あんまりわがままを言わなくなった。
ただ、その分コーイチにいった。コーイチなら、本当に無理なことはきちんと断ってくれる。だから思いっきりいえた。
それに、コーイチはあたしの望みに答えてくれた。無理だ、面倒くさいといいながら、結局あたしと一番多くの時間を過ごしたのがコーイチじゃないかな。
もう残り少ないあたしの時間。コーイチには最期までわがままをいうんだろう。
あたしは、コーイチから多くのものを貰った。あたしは何が残せるんだろう。
コーイチがおじいさんになっても、少しでもあたしのことを覚えていてくれたら嬉しいな。
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