2008年6月14日土曜日

現代小説『とある吸血鬼との戦い』

 難しい仕事ではない筈だった。
 内容はある少女の救出。問題は相手だが、強制的に排除しても構わない。
 目の前のその相手は、20歳前の青年に見える。一方、何十年も生きてきたような雰囲気もある。
 しかし、そんなものに意味はない。何しろ吸血鬼なのだから。実際に何年生きているのかは定かではない。
「もう、ここまでか?」
 吸血鬼だと分かった時点で、こちらも色々準備してきた。が、それらはことごとく効果をなさなかった。
 十字架や聖水といった古典的なものから、太陽光と同じ光を出す吸血鬼用のサーチライトまで持ち出したのだが……。
「こないのなら、こちらから行くぞ」
 いうなり一気に距離を詰めて来た。
 相手の武器は何の変哲もない木の杖。それを対魔の剣で迎え撃つ。
 一撃目!
 地面すれすれまで低くした重心から、一気に掬い上げるような突き!!
 右に捌く。
 が、今度はその流れを利用して杖の反対が左から襲う。
 かろうじて剣を戻して受ける。
 その流れにも逆らわず、巻き取るようにして攻撃と同時に武器の無力化を図る。
 これは何とか、剣を捨てるようしながら後ろに下がることでしのぐ。
 速い!! 軽い杖を使っているためか予備動作がない。その上、変幻自在だ。
「武器を捨てる勇気もあるか。しかし予備動作が大きい。行動が丸分かりだ」
 相手のいう通りだ。
 このままでは負ける。どこかに弱点はないか? 予備の剣を出しながら、目まぐるしく思考を巡らす。
 ……そうか!
 相手の攻撃は一切タメがない。だから軽い。こちらがしのげているのもそのおかげだ。
 ならば……!
 読まれようが関係ない。力任せに相手の攻撃を押し切った。
 いける! これなら相手の攻撃を潰しながら攻撃できるぞ!!
「こちらの攻撃が軽いとみた戦法か」
 そいつは少しだけ後ろに目をやり、
「少女は後ろの部屋だ」
 そういって攻撃を再開して来た。だが、さっきと同じように潰してやる。
 こちらの剣と相手の杖がぶつかった瞬間!
 なっ!?
 打ち負けているのは、こちらだった。
 なんだ!? 今の衝撃は? 相手の動作に変化はなかったぞ!?
「まだまだだな。だが、気に入った。次までに精進していろ」
 そういうと、相手は姿を消した。
 一体なんだったんだ……?
 しかしこれでなんとか、少女の救出に成功したのである。

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