2008年12月25日木曜日

ファンタジー小説『勇者と遊び人』

 魔王を倒すために故郷を立ってからどれ位の時が過ぎただろう。以来、ボクは勇者として数々の魔物と戦ってきた。
 旅立つとき、魔王を倒すというその困難な使命からか、一緒に来てくれる人はいなかった。だから、今一緒にいる仲間には感謝している。
 武道家のゼンジ。僧侶のマリア。そして遊び人のラウル。
 行く先々で、どうして遊び人の彼が一緒にいるのか不思議がられる。確かに彼は、戦いで直接役に立つわけじゃない。
 でもボクには彼の存在が必要なんだ。遊び人である彼の存在が。
 さっきも言ったように、彼は戦闘では役に立たない。逆に足を引っ張るような悪戯さえする。例えば、戦闘中にボクのおしりに触るとか。そんな時は、ボクも怒ってしまう。
 でも、こうして彼が緊張をほどいてくれるからボクは壊れずにいられる。彼がいなかったら、とっくに心が折れていたかもしれない。
 ううん、それだけじゃない。勇者として性別を偽っているボクは、彼がいることで何とか自分を保つことができている。彼が偽りだらけで壊れてしまいそうなボクの女の子な心を支えてくれる。
 それに振り返ってみると、彼の行動はキチンと考えてやっているんじゃないかと思える。そのときは大変な目にあっても、実は彼のおかげで何とかなっているんじゃないかな、ということが多い。
 もちろん、ただの偶然だといわれるよ。
 でもね、違うと思うんだ。こうして彼と夜を過ごすようになって、実は凄く気がつくことが分かったし、色んなことを知っていることも分かった。彼の心遣いが、ボクの心を支えてくれていることにも。
 彼を知るほど、決して自分のためだけに遊んでいるんじゃないと思えてくる。ただ遊んでいるだけじゃ、彼を説明できない。
 それでも……。そんな彼を見ることができるのはボクだけ。ボクだけが彼のそんな面を知っている。
 そして、彼だけがボクの女の子な面を知っている。
 誰が知っているだろう。彼がこんなにも鍛え上げられていることを。
 誰が知っているだろう。彼がこんなにも博識なことを。
 誰が知っているだろう。彼がこんなにもボクの心を繋いでいることを。
 ボク以外にはいない。ボク以外にはいないんだ。そして彼だけが、ボクのこんな面を知っている。
 だから魔王を倒すときまで、ボクは彼と一緒に旅を続けるんだ。そして、きっとそのあとも……。

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