2011年4月17日日曜日

現代小説『妊娠発覚』

「オメデタですね」
「……え?」
 ちょっと待て。オメデタって、つまりアレだよな? 妊娠?
 俺は医者にそう告げられて困惑してしまった。
 最近ちょっと身体が重いと感じていたし、どことなく嘔吐感や軽い頭痛がしていたから医者まで来たのだが、予想外の診断に固まってしまう。
 ちなみに、目の前にいるのはいわゆる闇医者である。まぁ普通に想像する闇医者とは異なるが。
 俺は本来男性であるため、当然戸籍や保険証も男性のそれである。そのため、女性になっているときには、戸籍も保険証もない。そのため保険証がなくても詮索のない闇医者に来たのである。
 なおこの医者、野村先生は、普段は普通の開業医である。普通の開業医をしながら、俺のようなわけありの診療・治療も行っているのだ。この近辺で活動している退魔業を営んでいる人たちも、治療はこの医者に頼っていることが多い。もっとも俺自身は怪我の治療というよりも、女性化した時の普通の掛かり付けの医者程度の感覚で利用しているのだが。
 あとこの医院では、人間だけではなく妖怪などの治療したりしている。さらにはそういった存在の健康診断も行っている。ちなみに俺は、この辺に協力していたりする。だからこそ、こうして気軽に来ることもできるのだ。
 そして少し体調がおかしいので受診してみて、驚きの事実を知ったというわけである。
「大体8週というところですね」
「そ、そうですか……」
 妊娠って、マジかよ……。
 いや、心当たりはある。一度、自分で慰めているところをあいつに見られてしまい、そのまま関係を結んでしまって以降、何度かあいつと寝てしまったのは事実だ。その内容は、ここで語るべきものではないだろう。
 が、まさか俺が妊娠するとは思わなかった。知識としては妊娠可能だと知ってはいたが、本来は男性だしつい、思考の埒外に置いてしまっていた。実際やっているときは「妊娠するかもしれない」いってあいつをからかっていたのだから、同じかもしれないが。
「ところで相手の方の了解は大丈夫でしょうか? 育てることが難しいのであれば考えますが」
 医者としては堕胎を勧めるのは心苦しいだろうが、俺は戸籍も保険証もなく診療を受けている身であり、場合によっては必要な処置として聞いたのだろう。裏稼業を営んでいる者が、子どもを堕ろすのは充分あり得ることだ。
「はい。それは大丈夫だと思います。妊娠したのなら産んでほしいと言ってましたので」
 あいつのことだから、初めての時に言ったこのセリフは本気だろう。例えピロートークの内容だろうと、あいつがいったことを反故にするとは思えない。
「それは安心しました。ところで今後はどうします? 産婦人科を紹介しますよ。もちろん保険証のこととかは誤魔化した上で」
「ありがたい申し出ですが、先生のままで構いません。専門ではないといっても、知らない医者よりも野村先生の方が安心できますので」
 確かに産婦人科の方がいいのかもしれないが、実際に子どもが産まれたときのことを考えると女性としての俺を詳しく知る人を増やさない方がいいだろう。まぁ詳しくはあいつと相談してになるが。
「とりあえずは、あの人とも相談します。今日はありがとうございました」
「一応、注意点をまとめてお渡しします。お大事にしてください」
 それにしても、妊娠か……。タバコは俺もあいつも吸わないからいいとして、たまに飲むお酒は注意した方がいいよな。他にも色々と注意が必要だろうし、大変そうだ。
 というか、ここ最近何となく予感がして男性に戻らなかったが正解だった。妊娠中に男性に戻ったら、おなかの中の子がどうなるか分からない。大丈夫かもしれないが、そんなリスクは負えない。
 しかし妊娠8週となると、これから出産まで8ヶ月近くかかるわけだ。その間はもちろん、その後も大変だろうな。女性としての俺には戸籍がないのだから、生まれてくる子どもの戸籍についても何とかしなければいけない。
 いざとなれば、あいつと婚姻を結ぶことで戸籍を捏造する必要があるだろう。何もないところからただ戸籍を用意するのより、婚姻ということで戸籍を作るときに誤魔化した方が自然だし、バレにくい。。まぁ、これもあいつと相談しなければいけないだろうな。

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